
結論:カスハラ客とは、暴言・暴力・脅迫・長時間の居座りなど、社会通念上許容される範囲を超えた言動で乗務員の就業環境を害する客のことです。
国土交通省はタクシー・バスの標準運送約款を改定し、カスハラをやめない客の乗車拒否や降車要請を可能にする方針です。
2026年10月15日の共同通信の報道によると、改定は12月1日に施行される見通しです。
この記事では、カスハラの定義と具体例、約款改定のポイント、東京都の条例や東京ハイヤー・タクシー協会の基本方針、ドライバーが知っておきたい対応をまとめます。
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客や取引先などから従業員に対して行われる、度を超えた言動や要求のことです。
2026年10月1日に施行された改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスハラを防ぐための雇用管理上の措置が義務づけられました。
法律上の定義は「3つの要素」
厚生労働省は、次の3つの要素をすべて満たすものをカスハラとしています。
カスハラに当たる3つの要素
- 顧客等の言動であること:顧客、取引先、施設利用者など事業に関係する人によるもの
- 社会通念上許容される範囲を超えていること:言動の内容と、手段・態様を総合的に見て判断
- 労働者の就業環境が害されること:身体的・精神的な苦痛を受け、就業上見過ごせない支障が生じている状態
カスハラの具体例
厚生労働省は、次のような例を示しています。
- 要求の内容が度を超える例:性的な要求や私生活に関わる要求、契約内容を大きく超えるサービスの要求、サービスと無関係な不当な損害賠償の要求
- 手段・態様が度を超える例:殴る・物を投げるなどの身体的攻撃、脅迫・中傷・侮辱・暴言・土下座の強要、大声で威圧する、同じ要求を執拗に繰り返す、長時間の居座りや電話での拘束
正当な苦情との違い
顧客からの苦情がすべてカスハラになるわけではありません。
厚生労働省は、社会通念上許容される範囲で行われた申し入れは正当なものだとしています。
たとえば「道が違う」「運転が荒くて怖かった」といった指摘や、落ち着いた口調での料金の確認は、タクシーの利用者として当然の要望です。
カスハラかどうかは、言っている内容と、その伝え方の両方で判断されます。
この章のポイント
- カスハラは「顧客等の言動」「許容範囲を超える」「就業環境を害する」の3要素で判断
- 2026年10月1日から、すべての事業主にカスハラ対策が義務化
- 正当な苦情や要望はカスハラではない
タクシーで問題になるカスハラの例
東京ハイヤー・タクシー協会は2026年3月に「タクシー業におけるカスタマー・ハラスメントに対する基本方針」を策定し、対象となる行為を次のように例示しています(これらに限りません)。
| 分類 | 具体的な行為の例 |
|---|---|
| 暴力行為 | 車内外を問わず手を出す、物を投げる、机を叩くなど |
| 暴言・侮辱・誹謗中傷 | 人格を否定する発言 |
| 威嚇・脅迫 | 危害を加える旨の発言や、恐怖を与える行為 |
| 差別的・性的な言動 | 差別的・性的な発言や行為、SOGI(性的指向・性自認)に関する発言や行為 |
| 屈辱的な行為の強要 | 土下座など |
| 不当な長時間拘束 | 降車拒否、電話での過剰な長時間の要求、繰り返しの不当なクレーム |
| 度を超えた対応の強要 | 割引や不当な補償の要求 |
| 盗撮・無断撮影 | 乗務員の盗撮や無断での撮影 |
| SNSでの中傷 | 会社や従業員の信用を傷つける虚偽・誹謗中傷的な投稿 |
| つきまとい | つきまとい行為、私生活への不当な干渉 |
※出典:東京ハイヤー・タクシー協会「タクシー業におけるカスタマー・ハラスメントに対する基本方針」(令和8年3月)。
密室で1対1になるタクシーでは、「目的地に着いても降りない」「乗務員を撮影してSNSに上げる」といった、タクシーならではの行為も含まれているのが特徴です。
国交省が「乗車拒否」を可能に|標準運送約款改定のポイント
共同通信は2026年10月15日、国土交通省がタクシーやバスの「標準運送約款」を改定し、カスハラをやめない乗客に対して乗車拒否や降車を求めることができると明確にする方針だと報じました。
報道で示された改定のポイント
- 対象:タクシーとバスの標準運送約款
- 施行:12月1日に施行する方針
- 乗客側:カスハラを控えることを明記
- 乗務員側:乗客にカスハラをやめるよう求められることを明記
- やめない場合:乗車拒否や降車の要請ができる
- 具体例の例示:カスハラ行為を約款に例示するかは検討中
- 事業者への要請:降車を求めると強い反発も予想されるため、運転手の安全確保の取り組みも求める
※2026年11月3日時点では報道ベースの方針です。正式な条文と施行日は、国土交通省の発表と各社の運送約款で確認してください。
そもそも「標準運送約款」とは
標準運送約款は、国土交通省が作る運送約款のひな型です。タクシー会社はこれをそのまま自社の約款として使うことができます。乗客と事業者の間の「乗車のルール」の土台になるもので、ここにカスハラへの対応が書き込まれることで、全国のタクシー・バスで共通の判断基準ができることになります。
これまでの乗車拒否のルール
タクシーには道路運送法上の運送引受義務があり、正当な理由のない乗車拒否は認められていません。一方で、泥酔して行き先を告げられない人、暴行や脅迫をする人、法令や公序良俗に反する運送を求める人などについては、以前から運送を断ることができるとされてきました。
過去には、2020年11月に新型コロナ対策として、正当な理由なくマスクの着用を拒む客の乗車を断れるよう、都内の事業者が運送約款を変更した例もあります。今回の改定は、カスハラについても約款上の根拠をはっきりさせるものといえます。
この章のポイント
- 標準運送約款に「カスハラを控える」「やめるよう求められる」ことが明記される方針
- やめない場合は乗車拒否・降車要請が可能に(12月1日施行の見通し)
- 正当な理由のない乗車拒否が禁止されている点は変わらない
東京ではすでに対策が進んでいる
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
東京都では、全国で初めてカスハラ防止を定めた「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が2024年10月4日に成立し、2025年4月1日に施行されました。罰則規定はありませんが、カスハラを行ってはならないことを条例で定めています。
東京ハイヤー・タクシー協会の基本方針
東京ハイヤー・タクシー協会の基本方針では、カスハラを「社会通念上著しく不当な言動や要求であって、従業員の就業環境を害し、安全な運行や適正なサービス提供に支障を及ぼすもの」と定義し、次のような対応を掲げています。
- 被害を受けた従業員の心身のケアを最優先する
- 全従業員を対象に、カスハラの知識と対処法の研修に努める
- 相談窓口を設け、必要に応じて警察・弁護士などと連携できる体制をつくる
- 乗務現場・配車センター・営業所から安心して報告できる仕組みをつくる
- 方針に基づく正当な対応を理由に、従業員を不利益に扱わない
- まずは理性的な話し合いに努め、カスハラと判断し正当な理由がある場合は、以降の乗車・配車・サービス提供を断ることがある
- 悪質・重大な場合は、警察や弁護士などと連携して毅然と対応する
全国ハイヤー・タクシー連合会もカスハラへの基本方針を公表しており、業界全体で「乗務員を守る」方向に動いています。
まずは、登録してみよう!「情報収集」という段階でもどうぞ
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ドライバーにとって何が変わる?
約款にカスハラへの対応が明記されることで、乗務員は「やめてください」と伝える根拠や、続く場合に運送を断る根拠を持てるようになります。これまでは「乗車拒否」と言われるのを恐れて、理不尽な言動を我慢していた乗務員も少なくありませんでした。
ただし、実際の場面では次の点に注意が必要です。
- 安全が最優先:報道でも、降車を求めると強い反発が予想されると指摘されています。無理に言い争ったり、危険な場所で降ろしたりしないことが大切です。
- 会社のルールに従う:どの段階で営業所や配車センターに連絡するか、どう記録を残すかは会社ごとに決められます。入社時の研修で確認しておきましょう。
- 記録を残す:ドライブレコーダーや車内カメラの映像は、後で事実を確認するうえで重要です。
- 危険を感じたら110番:暴力や脅迫など悪質な場合は、ためらわずに警察へ連絡します。
- 正当な苦情とは分けて考える:道順や運転への指摘など、正当な申し入れには丁寧に対応することが前提です。
理不尽な客への向き合い方やストレスへの対処は「タクシー運転手に向いてる人はメンタルが強く、すぐに辞めない」も参考になります。
カスハラ対策がしっかりした会社の選び方
カスハラ対策は法律上すべての事業主の義務になりましたが、具体的な取り組みには会社ごとに差があります。転職の際は、次の点を確認しておくと安心です。
面接・会社説明で確認したいこと
- カスハラに対する方針を社内外に公表しているか
- 乗務中にトラブルがあったときの連絡先と、対応の流れが決まっているか
- 車内カメラ・ドライブレコーダー・緊急通報の仕組みがあるか
- 警察や弁護士と連携する体制があるか
- 被害を受けた乗務員へのケアや、休みの取り方への配慮があるか
- カスハラへの正当な対応を理由に、乗務員を不利益に扱わないと明言しているか
働きやすい会社を見極める視点は「タクシー運転手の離職率は高い?標準?」でも紹介しています。
よくある質問
Q. タクシーのカスハラとは何ですか?
A. 顧客などによる、社会通念上許容される範囲を超えた言動で、乗務員の就業環境を害するものです。暴力・暴言・脅迫・土下座の強要・長時間の居座り・盗撮・性的な言動などが当たります。正当な苦情や要望はカスハラではありません。
Q. カスハラ客の乗車拒否はいつからできるようになりますか?
A. 共同通信の2026年10月15日の報道では、国土交通省は標準運送約款を改定し、12月1日に施行する方針とされています。正式な条文や施行日は国土交通省の発表と、各タクシー会社の運送約款で確認してください。
Q. どんな客でも「カスハラだ」と言えば乗車拒否できますか?
A. できません。報道では、乗客にカスハラをやめるよう求めても続く場合に乗車拒否や降車要請ができるとされています。正当な理由のない乗車拒否は、これまでどおり道路運送法上認められません。
Q. 乗車中にカスハラを受けたらどうすればいいですか?
A. まず自身の安全を優先し、無理に言い争ったり降ろそうとしたりしないことが大切です。会社の指示に従って営業所や配車センターへ連絡し、危険を感じたら110番通報します。ドライブレコーダーや車内カメラの記録も事実確認に役立ちます。
Q. カスハラ対策がしっかりしたタクシー会社の見分け方は?
A. カスハラへの方針を公表しているか、相談窓口や警察との連携体制があるか、車内カメラや緊急通報の仕組みがあるか、被害後のケアや不利益取扱いの禁止を明確にしているかを面接で確認しましょう。
まとめ
タクシーのカスハラと乗車拒否の要点
- カスハラは「顧客等の言動」「許容範囲を超える」「就業環境を害する」の3要素で判断され、正当な苦情は含まれない
- 2026年10月1日から、すべての事業主にカスハラ対策が義務化された
- 国土交通省は標準運送約款を改定し、カスハラをやめない客の乗車拒否・降車要請を可能にする方針(12月1日施行の見通し)
- 東京では都の条例(2025年4月施行)と東京ハイヤー・タクシー協会の基本方針(2026年3月)で対策が先行している
- 実際の場面では安全を最優先し、会社のルールに沿って対応することが大切
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参考資料
- 共同通信「【独自】カスハラ客は『乗車拒否』可能 タクシー、バス約款明記へ」(2026年10月15日、熊本日日新聞社掲載):https://kumanichi.com/articles/2047020
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「カスタマーハラスメント」:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/harassment_list/customer-hara
- 東京ハイヤー・タクシー協会「タクシー業におけるカスタマー・ハラスメント防止への対応について」(令和8年3月):https://www.taxi-tokyo.or.jp/assets/pdf/home/info20260327.pdf
- 全国ハイヤー・タクシー連合会「カスタマーハラスメントに対する基本方針」:https://taxi-japan.or.jp/zius/wp-content/uploads/2026/03/一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「カスタマーハラスメントに対する基本方針」.pdf
- 契約ウォッチ「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例とは」:https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/cushara-tokyo-202504/
- Time Out Tokyo「都内のタクシー、マスク未着用者への乗車拒否が可能に」(2020年11月):https://www.timeout.jp/tokyo/ja/ニュース/都内のタクシー-マスク未着用者への乗車拒否が可能に-111120
※本記事は2026年11月3日時点の報道・公表資料をもとに作成しています。標準運送約款の改定内容・施行日は国土交通省の正式発表をご確認ください。本記事は法的助言ではありません。




